糖尿病およびその予備軍の人は、血糖が増えるだけでなく、体の緊張や冷えが見られます。
このような患者さんに効果的なツボは、主に「天枢」「脾兪」「三陰交」です。
目次
1.体がかたく冷えていると糖尿病の疑い?
肩こりがひどい、原因不明の足のしびれが続く、いつも疲れが取れない……こうした症状で来院された患者さんの腹診をすると、体が緊張してかたく、冷えていることがあります。
その場合、糖尿病の可能性があります。
そして、患者さんにふだんの食事や運動習慣についてお聞きすると、「イライラして、つい食べ過ぎてしまう」「忙しくて運動する余裕がない」「最近、体重が増えてきた」「実は検査で血糖値が高くなっていた」という事が多くあります。
糖尿病改善に効果的なツボ刺激してあげると、肩こりやしびれ、だるさといった症状がよくなり、血糖値の改善効果が現れる可能性があります。
そのツボは、「天枢(てんすう)」「脾兪(ひゆ)」「三陰交(さんいんこう)」です。
今回は、ご自身でできる押し方も併せて、これらのツボを詳しくご紹介します。
2.胃腸の機能を調整して冷え対策
2-1.天枢
天枢は、へその横、左右5cmのところにあります。
糖尿病の患者さんはおなか全体が緊張しているのですが、特に右の天枢が冷えてかたくなっています。実際、患者さん自身に右と左の天枢を触って比較してもらうと、右のほうが冷たいと実感されます。
このように、病気によって反応が現れるツボを「診断点」といいます。
押すことで痛みや違和感などがあり、診断点は不調のチェックに使えます。
天枢は糖尿病の診断点であると同時に、糖尿病の治療に役立つ「治療点」でもあります。
糖尿病の患者さんは胃腸の機能が落ちていて、消化・吸収・排泄がスムーズに進んでいません。
そのため、食事からとり入れた糖分を、エネルギーとしてうまく利用できなくなり、血糖値が高くなってしまうのです。
天枢は胃腸の機能を調整する、代表的なツボです。
吐き気やおなかの張り、下痢、便秘など、幅広い症状に対応しています。
糖尿病でなくても、こうした症状が現れたときには天枢を刺激するといいでしょう。
天枢の押し方は、下の図をご覧ください。おなかはデリケートな部位なので、「物足りない」と感じる程度の弱い力で押すのがポイントです。
胃腸機能の改善のほかにも、デスクワークのあとや眠れないときなどに刺激すると、リラックス効果が得られてお勧めです。
❶右の天枢周辺に、両手の親指以外の指先を重ねて置く
❷皮下脂肪を押し分ける程度の力で押しながら、小さく「の」の字を描くように、1秒かけて指先を回す(回す方向はどちらでもよい)。これを5回行う
❸左の天枢も同様に押し回す
※食後2時間を除き、好きなときに何回行ってもよい。長時間同じ姿勢をとったあとや、眠れないときがお勧め
2-2.脾兪
脾兪は、ウエストラインより9cmほど上で背骨の横、左右4.5cmのところにあります。
ネコ背になると緊張してかたくなるところなので、それを目印にしてください。
脾兪はその名のとおり、東洋医学でいう「脾」に働きかけるツボです。
脾はインスリンを生み出す膵臓だけでなく、胃腸や脾臓を含めた、消化吸収に関する働きを担うと考えられています。
高血糖状態においても脾のケアはたいせつです。
また、体の緊張やだるさにより悪いクセのついた姿勢を戻す狙いもあります。
姿勢の改善が、不調の解消につながるのです。
背中をほぐしたいときや、姿勢が気になったときなどに行うといいでしょう。
脾兪の押し方は、下の図をご覧ください。なお、背中を反らしながら押すので、腰痛がある人は行わないでください。
【注意】 腰痛がある人は行わない
❶両手の親指を左右の脾兪にそれぞれ当て、残り4本の指先を下に向けてウエストの上部に置く。
❷「押して気持ちいい」と感じる強さで押しながら、5秒かけてゆっくりと背中を反らせて胸を広げる
❸5秒かけて元の姿勢に戻る
※食後2時間を除き、好きなときに何回行ってもよい。背中をほぐしたいときや、姿勢が気になったときがお勧め
2-3.三陰交
三陰交は、内くるぶしの頂点からひざ側に9cmほど上にあります。
押すとくぼむ場所なので、見つけやすいツボといえるでしょう。
三陰交は、冷えの特効ツボとして有名で、足のしびれの解消などにも役立ちます。
さらに、三陰交には肝・脾・腎の三つの経絡(「気」という生命エネルギーの通り道)が交わっています。
そのため、高血糖および、それに伴う不調の改善にも効果を発揮するのです。
まさに、万能のツボとも呼べるでしょう。三陰交の押し方は、下の図をご覧ください。
❶床かイスに座り、右ひざを外側に倒して、三陰交に両手の親指を重ねて置く
❷5秒かけてゆっくりと、気持ちいいと感じる強さで押す
❸左足の三陰交も同様に押す
※食後2時間を除き、好きなときに何回行ってもよい。冷えや足のしびれを感じたときに押すのがお勧め
3.緊張してかたく冷えた体をやわらかく温かい体に
糖尿病は、膵臓から分泌されて血糖値を下げるインスリンというホルモンが関係する病気ですが、東洋医学では膵臓だけの問題だとはとらえません。
患者さんが訴える症状や全身の状態をもとに、対策を検討して治療を進めていきます。
今回ご紹介したツボ押しも、「刺激すれば膵臓の機能がよくなってインスリンが分泌される」という、直接的な効果だけを、ただ単に求める手法ではありません。
緊張してかたく冷えた体を、やわらかく温かい体にする治療のアプローチでもあるのです。
冒頭で述べたとおり、糖尿病およびその予備軍の人は、血糖が増えるだけでなく、体の緊張や冷えが見られます。
具体的な例には、肩こりやしびれのほかにも、手のひらや足の裏、顔が赤くなったり、うっすらと汗をかき、体がガチガチにこわばったり、背中が丸まって、だるさを感じたりするような症状が見られます。
このような体に現れる不調をケアすることもたいせつです。
これらが解消すると、食事を見直したり、運動を取り入れたりして、積極的に生活習慣を改める患者さんも珍しくありません。
体の不調が解消されることにより、自身の健康をさらに意識してもらうことにも役立つのです。
また、ツボ押しの目的の一つに、自分で自分の体を知ることもあります。
自分でツボを触ってかたさや冷えを確かめると、胃腸の状態などを感じ取ることができます。
それが、糖尿病を改善させる最初の一歩となります。
そして、まだ検査で血糖値の高さを指摘されていなくても、頑固な肩こりやしびれ、昼間の強い眠気、だるさなどを感じていたら、一日のなかで血糖値が乱高下している可能性があります。
このような糖尿病を発症していない「未病」にも、ツボ押しは効果を発揮します。
思い当たる症状があれば、ぜひ、ご紹介したツボ押しを取り入れてみてください。